雑踏警備(イベント警備)のアナウンス業務「広報」 ~方法や手段(使用道具)をご紹介~
はじめに
お祭りや花火、マラソン大会やライブなどのイベント会場で、警備員が働いている姿をよく見かけるのではないでしょうか。
屋内・屋外ともに多くの人が集まる場所で警備をする業務を「雑踏警備」といいます。イベント開催の時期に合わせて仕事を行うため「イベント警備」と呼ばれることもあります。
イベントが問題なく進むよう、来場者に向けて情報提供や注意喚起のアナウンスを行う業務は「広報」といわれ、雑踏警備の重要な仕事のひとつです。
今回は、雑踏警備(イベント警備)のアナウンス業務である「広報」についてご紹介したいと思います。
広報(アナウンス業務)と「群集心理」
雑踏警備(イベント警備)の「広報」とは、イベントをスムーズに進めるために、群集である「イベント参加者」に向けて情報を伝えたり行動を促したりするアナウンス業務を指します。
イベント参加者は、人が集まったときに起こりやすい「群集心理※」に左右されてしまう可能性があるため、警備には注意が必要です。
※群集行動の中で一時的に生まれる特殊な心理状態のこと。①判断力や理性的思考の低下、②衝動的で興奮性が高まる、③自分の意見がなく他人の意見に賛成しやすい、などの特徴がある。
「群集心理」について詳しくはこちら。↓
「雑踏警備(イベント警備)で知っておきたい「群集心理」 ~人が集まったときに起こりやすい心理状態とは?」~
来場者にアナウンスをする際は、事前に次のような群集心理の特性を知っておくとよいでしょう。
・群集として動いていても、それぞれ個人には異なった感情がある。
・群集の整理(制御)には、大多数が納得できる状況が必要。
・群集の感情は、個人レベルでは制御しきれず、周囲の人に左右される特質がある。
〈例(1)〉自分が納得していても、周囲の人が納得せず抗議をはじめる➡自分も徐々に納得できない感情になる。
〈例(2)〉自分が納得できない事態でも、周囲の人が納得している➡自分も次第に落ち着く(自分だけが抗議できないという自己制御)。
- 警備上、積極的に解消しなければいけないものは、群集の「物理的不満」よりも「心理的不満」である。
- 群集に必要な情報が伝わると心理の安定につながる⇔情報がないと不満・不安が強まる。
〈例〉(前方の群集の移動中に事故が発生し、後方の群集が停止した)
事故の情報が後方に伝達されない➡後方の不満が高まる➡秩序が崩れていく(罵声・怒号、横から前に出ようとする、後進しようとするなど)
- 群集が心理的に安定していると、警備員からの依頼・指示が受け入れられやすい➡事故を未然に防止
群集に対しての心理的不満を解消するために最もよい方法は、適切な時期に、的確で詳しい広報を行うことです。
広報の種類は3種類
広報の種類には、➊情報広報、➋規制広報、➌禁止広報の3つがあります。
➊情報広報
群集の興奮や焦燥感などの「心理的不満を解消させる」ための広報です。
求められている情報が何かを的確に判断し、事前に繰り返しアナウンスすることが重要です。
〈例〉入場の時間待ちなどで混雑している
『皆様、大変長い間お待たせしておりますが、開場時間は○○時となっております。今しばらくお待ちください。前のほうから順序よく並んでください。押したり、割り込んだりしないようお願いします』
➋規制広報
「雑踏事故を未然に防止する」「不正行為などを中止させる」ための広報です。
事前に危険(過密状態など)や不正を察知し、先を見越してアナウンスを行います。
「間違っていることを正す」という意味で「是正(ぜせい)広報」ともいわれ、➊情報広報と併せて行われます。
次のような点に注意して行います。
・常に群集の安全、会場の秩序を確保するという立場で行う。
・「規則に違反する」ことをアナウンスで強調すると、群集に反発を感じさせる➡厳しい命令口調を避けるなど、群集の大多数を味方につける広報が必要
〈例〉通行が止まっている(止まるおそれがある)
『○○付近の皆様にお願いします。○○付近は、お客様の通路(○○)となっています。立ち止まられますと後ろのお客様が通れません(○○できません)ので、立ち止まらないよう、お願いします』
➌禁止広報
「不法行為や規定違反などの行動を解消・阻止する」ための広報です。
問題などが発生した場合、速やかに警告・制止を行います。
内容が➋規制広報よりも強制力のある広報で、対象者を切り分けてアナウンスします。
- 「不法行為者」へ……➌禁止広報(毅然とした態度で、不法行為を明確に指摘)を行う。
- 「一般の群衆」へ……現場の状況に応じて、➊情報広報と➋規制広報を行う。
〈例〉危険な行為があった
『前の人が危険です。お年寄りや、お子様に怪我人が出るといけません。押すのはすぐ止めてください』
また、来場者に協力依頼などの広報を行った場合には、「感謝広報」といわれる
『大変お待たせしました』
『○○にご協力ありがとうございました』
などのアナウンスも行う必要があります。
一般的に、➊情報広報を行い、状況の変化により➋規制広報を行って、➌禁止広報を行う必要がないのが望ましいとされています。
広報の手段(使用道具)について
広報の手段(使用道具)は、一般的に
- 場内一斉放送
- 口頭
- 動作
- 拡声器
- 立て看板
- プラカード
- 張り紙
などを状況に応じて使用します。
<参考文献:「雑踏警備業務の手引」社団法人全国警備業協会(2006)>
広報の業務は、イベントが安全に終了するまで行われます。
過去にサッカー日本代表がワールドカップ出場を決めた際、DJポリス(試合後の道路で混雑するサポーターに対し、ユーモアある話術で交通整理を行った警察官)が話題になったことをご存じの方もいるかもしれません。
その後、一部の大型コンサート会場などでは、DJ警備員(アーティストにちなんだ案内でファンに入退場の誘導を行う)のアナウンスが流れる場面もあったようです。
上記の場合は特殊なアナウンス例ですが、来場者の心理を考えることは広報の仕事にとって重要なポイントです。
まとめ
雑踏警備には、イベントが順調に進むよう、来場者に対して情報提供や注意喚起を行う広報(アナウンス業務)という仕事があります。
広報の目的は、イベント参加者の心理的不満の解消や、事故の防止・不正行為の阻止などです。
広報には➊情報広報、➋規制広報、➌禁止広報の3種類があり、必要に応じて使い分けられます。
雑踏警備で広報を行う際は、現場の状況をよく把握してスムーズなアナウンスを心がけましょう。